印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、ホラー、ミュージカル等々好みのタイプでいろいろです。
私が見た好きな映画100本の印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶なので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします

連載095
イボンヌの香り[Le Parfum D'Yvonne]フランス 1994
監督:パトリス・ルコント

主演:イポリット・ジラルド、サンドラ・マジャーニ、ジャン・ピエール・マリエル、リシャール・ボーランジェ

ナイフ投げの的になり、短剣が顔の横に突き刺ささる瞬間にエクスタシーを感じる[橋の上の娘]のようにびっくりすることはないが、電車の中で好きな女の後ろから髪の匂いをかいでいる片想いの[仕立屋の恋]より、ふんわりとした光の中の幸せな気分の美容室[髪結いの亭主]よりも、官能ということではこの[イボンヌの香り]は、ルコント監督の中ではいちばんだと思う。

1950年代、フランスとスイスの国境にあるレマン湖のほとりのリゾート。男はホテルのロビーで出会った美しい女イボンヌに魅了される。湖を渡る船の甲板で彼女から「私が船から落ちたときには、形見にしてね」とパンティを脱いでわたされる。風で白いスカートが捲れて、綺麗なお尻と太股が見え隠れする。青い空と彼方に見える青いアルプス、船に掲げられた赤いスイスの国旗、白いドレスの女と黒いスーツの男が並んで佇む。シンプルな色どりのこのシーンの映像は特に印象的である。

そして、木陰での美しいディープなキスシーン。男は肩に手をやってワンピースの肩紐を下げると、胸の産毛が光っている。イボンヌの少し汗ばんだ体とパヒュームが混ざった香りまで匂ってきそうなアップである。次々と官能的なショットが、エレガントな映像のなかに挟まれている。ダンスシーンの音楽も官能的なラテンである。刹那的に生きるこの美しい蝶は、新しい蜜を求めて移っていく。ルコント監督の作品にはよくあるシチュエーションである。男にとっては忘れられない、幻想のようなひと夏の恋。

ルコント監督の新作[列車に乗った男]が大阪はシネ・リーブル梅田で6月5日より上映されている。


連載096
フォロー・ミー[Follow Me!]USA+イギリス 1972
監督: キャロル・リード

出演:ミア・ファロー、トポル、マイケル・ジェースト、マーガレット・ローリングス、アネット・クロスビー

毎日出かける妻が浮気をしているのではないかと思い、探偵を雇って尾行をさせる。毎日尾行をするうち探偵は妻の気持ちが分かって、無言のまま友達になる。アジヒラキ通、チクワ通は無かったと思うが、ベーコン通、ハム通のような食べ物の名前の通りを探偵がガイドをして街のあちこちをひたすら歩く。私は行ったことはないが、ロンドンの街を知っているともっと楽しめるであろう。映画館に入るときも、探偵が後ろから首を振ってお薦めの映画に案内する。そういえば、探偵は鞄に食べ物を入れていて、いつも食っていたような気がする。職業柄お昼に店で食事出来ない。カツ丼やうどんやカレーライスは食べながら追跡ができるが、焼き魚定食の場合、焼き魚とご飯と味噌汁とほうれん草のおひたしとお漬け物を、お盆に紐を通して肩から掛ければ行けないことはないが大変である。

私の好きな映画には、映画音楽の好みが左右していることもあるが、これもそうである。ジョン・バリーはゆったりと流れる美しいメロディの曲づくりがうまいひとである。彼の作曲のこの[フォロー・ミー]テーマソングは大好きである。ソフトを持っていないので聞きたいときに聞けないのが残念である。ジョン・バリーは007シリーズを多く手がけているが、特にシャーリー・バッシーの[ゴールドフィンガー][ダイアモンドは永遠に]ナンシー・シナトラの[007は二度死ね]がいい。その他にも[野生のエルザ]、[真夜中のカーボーイ]のテーマ、トゥーツ・シールマンスのハーモニカもいい感じである。そして映画は観ていないが[さらばベルリンの灯]がある。高校生の頃、毎週土曜日は授業が終わるとさっさと帰って午後からの映画音楽の番組(DJは関光夫)を聞いていた。この[さらばベルリンの灯]の美しいメロディはその頃聴いた、今も心に残っている曲である。

私が結婚をしてから数年を経た頃、関係がギクシャクしていたときに二人でこの映画をテレビで観たことがあった。寂しかったのに意地を張っていた気持ちが、堰が切れて溢れて凄く泣けたことを思い出す。夫は仕事、仕事に明け暮れて、帰宅後もゆっくり話すこともなく自分の考えを押しつけるばかりで、寂しい妻の気持ちを察しなかった。そして、探偵にいわれたままに妻の後を黙って歩いていく。

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[真珠の耳飾りの少女] ピーター・ウェーバー監督(2002年イギリス)

数年前に天王寺の市立美術館にフェルメール展を観に行った。その時にこの[真珠の耳飾りの少女]も来ていた。あまり大きくない絵だが、青いスカーフを巻いた人物だけで、他の絵とは違う印象だった。真珠のハイライトが小さく入れてあった。

フェルメールの映画ということで興味があり観に行って来た。フェルメールは生前のようすがあまり知られていない謎めいた画家である。彼の数少ない絵をもとにガラス窓のデザインや窓辺に佇むモデルやその他チェンバロ、椅子などリアルに再現されていた。当時を再現した運河のあるオランダの街並みも出てくるが興味深く観た。

絵の具をつくるシーンがある。チューブを絞って出すのは印象派の頃からか?この1600年代は顔料をすりつぶして練ってつくっていた。群青の顔料をメイドに買ってこさすが、鮮やかさに目をみはる。昔は青い色は貴重で高価だったというのを何かで読んだことがある。絵を描くときのトリミングを見るため?のレンズの付いたカメラのような大きな木箱がでてくる。布を被って覗くと磨りガラスに映像が映る機器である。メイドが初めてこれを覗いて驚き、絵画に関心を深めていく。

曇ったガラス窓の拭き掃除をすると、光の強さが変わってしまうのではないかと気にする繊細なメイド。(でも、窓を拭く雑巾はもっと固く絞らないとビチャビチャやんとツッコミを入れる私はうるさいオヤジ?)彼女は彼の妻とは違って美術を理解する感覚があり、顔料を練ったりして手伝うちに二人の間に精神的な絆が強く結ばれていく。最初はためらっていたが、モデルになり[真珠の耳飾りの少女]という名画が今に残ることになる。「心まで、描くの」という台詞がいい。少ない史実をもとにストーリーをつくってあるが、この絵の由来のようなことが感じられてよかった。メイド役のスカーレット・ヨハンセンは[ゴーストワールド]では脇役だったが、これで主役を演じ、6月後半公開の東京を舞台にした[ロスト・イン・トランスレーション] にも出演。これから楽しみな女優である。

●フェルメール「画家のアトリエ」というタイトルで7月17日から10月11日まで神戸市立博物館で栄光のオランダ・フランドル絵画展が開催。
先日、大阪在住の美術家の森村氏がフェルメールの「画家のアトリエ」の絵をもとに、このアトリエを再現するのをテレビ番組「新日曜美術館」で見た。コンピューターで調べるとフェルメールの絵画は、遠近技法をもとに正確に描かれているそうだ。タイルの大きさを基準に全体の寸法を割り出している。森村氏が二人の衣装を着て撮影をしていた。再現されたアトリエは展覧会場で公開される。

フェルメール展チラシ(部分)より
栄光のオランダ・フランドル絵画展カードより