言葉も通じない見知らぬところへ一人旅をして、雑踏の中にいるとぽつんと取り残された孤独感があるが、まだ自分が行きたくて行ってるのでその状況も楽しめる。この映画の場合、一人でCM撮影の仕事で来たハリウッド俳優や、写真撮影の仕事で来日した夫に同行した妻はそれほど日本文化に興味があるわけでもないので、なじめず孤独である。ロケ地が東京ということで、どんな映像を観れるのか楽しみであったが、英字、漢字、仮名文字が混ざったネオン、看板がごちゃごちゃとある街の夜の風景が意外にもカラフルで綺麗なショットで捉えられていた。ハリウッド俳優が空港からずっと寝ていてふと目を醒ますと、おもちゃ箱をひっくり返したような東京の繁華街がいきなり飛び込んでくるシーンがいい。

日本の街は雑音が溢れている。うるさいゲーセン、パチンコ、選挙運動などが映画に出てくる。ゲストでハリウッド俳優がテレビのバラエティー番組に呼ばれるが、やかましい、落ち着きがない、低能、最低である。実際こんなのが多いが、日本のアホ番組を出すのは、止めてくれという感じである。そんな中、写真家の妻が京都に旅をするシーンが出てくるが。静かな京都の佇まいが美しく撮ってありホッと息が抜けてよかった。こんなギャップが海外から見る日本は不思議な国に見えるのであろうか。

タイトルの「ロスト・イン・トランスレーション」はCM撮影の俳優に、ディレクターが日本語で意図を伝えるが通訳があまりに簡単な英語にしてしまうので、うまく伝わらないというところから来ている。ディレクターに訳も分からず怒鳴られ気分が沈んだ俳優とロックバンドの撮影に忙しい夫に取り残されてひとりぼっちの妻が、同じホテルに滞在していて何度か顔を合わせるうちに仲良くなって心を通わす。くたびれかかった俳優をビル・マレイが淡々と、幸せだけど孤独な若い妻をスカーレット・ヨハンセンがごく普通にさりげなく好演していた。そして、空港に向かう車から街を行く彼女を見かけて、車を降りて追っかけて会うシーン。忘れがたい旅となる。アメリカ映画には珍しい、繊細なロマンチックさをみせてくれる大人の映画。

梅田はスカイビルのシネ・リーブル梅田で上映中

印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、ホラー、ミュージカル等々好みのタイプでいろいろです。
私が見た好きな映画100本の印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶なので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします。

連載097
MON-ZEN[Erleuchtung Garantiert]ドイツ 1999
監督:ドーリス・デリエ
主演:ウーヴェ・オクセンクネヒト、グスタフ=ペーター・ヴェーラー、石川県総持寺の人々

外国映画で日本が舞台になったものは、大阪で撮られたリドリー・スコット監督「ブラック・レイン」とこの6月に上映されているソフィア・コッポラ監督「ロスト・イン・トランスレーション」ずっと前の「007は二度死ぬ」ぐらいか思い浮かばないが、もう一つがこの映画である。東京や車窓からの眺めが外国の監督にどのように見えているのか興味深い。英字、漢字、仮名文字の入り乱れたカラフルなネオンで明るい夜の無国籍な東京は外国人にはストレンジで面白く見えるであろう。一方、デパートの開店時間にフロアーの販売員全員が一斉にお辞儀をするショットが出てくるが、NIPPON!という感じである。

この「MON-ZEN」を観ていると海外の初めて訪れたところの旅を思い出す。初めて日本にやって来た兄弟のドイツ人がどういう行動をするのか見ていると面白い。東京ではゲリラ的に撮影されている。電話をかけるのに、見知らぬ日本人から小銭を貰うシーンなどがある。キャッシュマシーンと思って突っ込んだカードが出てこなかったり、高いバーで飲んで現金を使い果たし、デパートでテントを万引きして公園で野宿生活などマッチトラブルな旅になる。駅でドイツの歌を歌っていたら、親切なドイツの同胞が宿を提供してくれ、バイト先のビアホールで仕事をさせてくれて、心温まる旅でもある。

ようやくたどり着いた石川県のお寺での修行は、禅に興味のあった弟より、仕事ばかりしていて妻子に逃げられて落ち込んでいた兄貴の方が順応性があり、心の平穏の取り戻してくる。何故、汚れてもいないゴミもない廊下や庭を毎日掃除するのかという疑問に「それは心の掃除をしているのです。」や人生って?幸せって?生きるって?というような話を実際のお坊さんがいろいろ話をしてくれる。

私も最初の会社では新入社員教育で西宮の禅寺に三泊ほど修行?にいったことがある。若い頃なので何のために禅寺などへと訳も分からず、一日三度の座禅の時間は苦痛であった。集中していなかったり、固まりすぎているときは両肩を4回づつ平たい棒で叩かれる。パン!パン!パン! 強くパン!と堂内に響き渡り耳にピーンと音が鳴る。肩は青いあざになっていた。朝は早くから起こされた。朝食はお粥と5年ほど漬けた皺々の沢庵で、お代わりをして食べておかないと座禅の時におなかが鳴り出した。読経や廊下や庭の掃除もした。今頃になってお盆の時などは、その時貰った経文を見ながらお経を唱えている。これはこのときの三日の修行の成果である。最後の日の朝お寺の外を掃除をしているときに、出勤中の若い女性をわずか三日ぶりに見てシャバはいいなぁと悟りの境地?に達したことを思い出す。私のことはさておいて、ドイツ人兄弟には忘れられない旅の映画である。

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ロスト・イン・トランスレーション
監督:ソフィア・コッポラ

(2003年アメリカ)