印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、ホラー、ミュージカル等々好みのタイプでいろいろです。
私が見た好きな映画100本の印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶なので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします。

連載069
ウディ・ガスリーわが心のふるさと[Bound For Glory]USA 1976
監督:ハル・アシュビー

主演:デヴィッド・キャラダイン、メリンダ・ディロン、ランディ・クエイド、ゲイル・ストリックランド

[This Land Is Your Land]のソングライターとして知られているウディ・ガスリーの自叙伝[Bound For Glory]の映画化である。1930年代、押し寄せる大不況の嵐、そのうえ映画の冒頭にもでてくるが、竜巻の砂嵐にも襲われ土地を手放さざるをえない農民とともにオクラホマを離れ、カリフォルニアをめざして放浪する。しだいに、労働者の組合運動、左翼運動で労働者の立場から歌をつくり歌い続け、後のボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、ピート・シーガーなどやフォーク、プロテスト・シンガーに大きな影響を与えた人である。ライ・クーダーも彼の[Do Re Mi]をレコーディングしている。

この映画は映像が美しい。列車の上に乗って西部の大自然の中を旅するシーンは、特に心に残っている。貨物列車に飛び乗り、当てもなく旅をするHOBOの生活にちょっと憧れを抱いて観ていた。撮影はハスケル・ウェクスラー。美しい映像の[天国の日々]をはじめ[アメリカン・グラフィティ][カッコーの巣の上で]など多くの作品を手がけている。

アメリカ人は幌馬車で西部を目指した時代から、伝統的に移住をよくする人達がいるようだ。サンフランシスコでしばらく逗留していた食事付きのレジデンスホテルにも、アメリカ各地から来て長く滞在していた人達がいた。ある人は街へ働きに出かけ、ある人はそのホテルで働いていた。シカゴから来たという、いつもバドワイザーの缶ビールを欠かさず持っていたそのホテルのシェフは、ニューオリンズに行くといって去っていった。公園で鳥の写真と撮っていたときに会った黒人の男は、サンフランシスコではいいことが無いのでアルブクーキーに行くと、見知らぬ私に向かって自分に言い聞かせるように話していた。

1979年、セントルイス出身の友人カップルを訪ねてプエブロ・コロラドに行ったときは、私達夫婦をルームメイトとして住まわせてくれた。彼等も暫くして、新しい仕事場が決まったといってソルトレークへ私達より先に移って行った。皿洗いのバイトをしたレストランに、ウィスコンシン州から来たというスレンダーなウエイトレスの娘がいたが、コロラドからさらに西へ行くといってレストランを辞めて行った。アメリカ人のなかには、新天地を求め希望を抱いて移っていく習性があるようである。

ウディ・ガスリーはロサンゼルスで家族とともに安定した生活をおくっていたが、ある日突然家族を残したまま放浪の旅へ出てしまうシーンがある。家庭的な良き夫、父親ではなかったのかもしれないが、彼はギター片手に、あちこちを彷徨いながらいろんな人達と歌を歌う自由な生活の方が彼の望む生き方だった。自分の気持ちに正直に生きたということだろう。それは、当時の貧窮の時代、仕事を求めて西へ向かう農民や、企業にいわれるがままの悪条件で働くしかない労働者に勇気を与えた。


連載070
フェリーニのアマルコルド[Amarcord]イタリア+フランス1974
監督:フェデリコ・フェリーニ

主演:プペラ・マッジョ、マガリ・ノエル、アルマンド・ブランチャ、チッチョ・イングラッシア

監督の少年の頃を映画にしたものは好きだが、フェリーニ監督は、一年の季節の移り変わりの中に思い出のエピソードを詩情豊かに美しく織り込んでいる。北イタリアの小さな港町に、風に吹かれて棉毛が飛んでくると、広場に人々が集い、藁を積み上げ魔女の人形を立て火を放ち、春の訪れを祝う。日本では飲んで、食って、騒いでばかりの気もするが、桜を愛で春の訪れを喜ぶようなものであろうか。

大型客船が夜、近くを通るので、明るいうちからボートに乗って見に行くシーンがある。でかい船がその当時は珍しかったのか、みんなで手を振って通り過ぎる船を見送るだけだが、感動的である。その船はセットでつくられたものらしいが、灯りの点ったたくさんの小さな窓が美しく、全くそんなふうには見えなかった。霧のシーンも美しい。白い牛が出てくるのもいいが、特に、ぼんやりとした木のシルエットがいろいろなオブジェに見えるのが面白かった。

町いちばんの憧れの美人の白い服に赤いショールのコントラストが、雪が積もって白くなった町の風景に浮かび上がり綺麗だった。彼女が雪玉をつくろうと屈んで丸くなったお尻に、男達が雪玉をぶつけるシーンがいい。私としては、たばこ屋の巨乳よりこちらのほうが好きである。その他、木の上で叫ぶ叔父さん、物売りのほら吹き男、盲目のアコーデオン弾き、よく怒るが優しいお父さん、お父さんといいコンビのお母さん、とぼけたお爺さん、男大好きの女、悪戯好きの主人公とその仲間、そして学校の先生達も短く編集されてはいるがそれぞれに面白く人間味溢れる映画である。ニーノ・ロータのサウンドも哀愁を醸し出して美しい。

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マリ・クレール1987年6月号より