去のない男(フィンランド 2002)  
監督:アキ・カウリスマキ

カウリスマキ監督の映画は不幸の中でも悲壮感はない。主人公も怒り、喚くでもなく日々淡々と生きている。金やものを奪うために記憶が無くなるほど殴ったり、蹴ったりするひどい奴らがいれば、瀕死の状態で倒れているところを助けて、家で介抱してくれる人もいる。この世は天国や地獄と違って悪魔も天使も住んでいるところである。手をさしのべるその天使たちは、コンテナを家にして住んでいる。豊かというのは、いろんなものを持っていることより、どんな心を持っているかということをこの映画は語っているようである。

彼もコンテナに住むことになり、誰かが古いジュークボックスを持ってきてくれる。プールバーのようなところに置いてあったのだろうか?その中に入っているレコードの選曲がなかなかいい。30年前にはよく見かけられたジュークボックス。コインを入れて聴きたい曲の選曲ボタンを押してレコードがターンテーブルに乗るのを見ながら、イントロが始まるまでの間のわくわくする気分が懐かしい。ときには選曲ボタンの番号を押し間違えてコテコテのド演歌が流れたりして、こんな曲が好きなのかと思われるのがひどく恥ずかしかったこともあった。主人公はコンテナの家でロバート・ジョンソン?のブルーズやかっこいいロックン・ロールを聞いていた。生活環境が悪くても、好きな音楽を聞けば癒されたり、元気づけられる。音楽は生活には欠かせないものである。

恵まれない人々のための救世軍には、フィンランドの民謡のような地味なフォークソングを演奏するバンドがあった。そこで仕事をはじめた主人公は、そのバンドにもっと多くの人が楽しめる音楽を演奏したらどうかとアドバイスをする。そして、彼等を自分のコンテナハウスに彼等を呼び、ジュークボックスの音楽を聞かせる。バンドはロックン・ロールを演奏するが、その音はかって3〜40年前の北欧のバンドの ザ・サウンズやスプートニクスを思わせるギターがシングルトーンのすっきりした音で懐かしかった。

日本のクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」という曲が出てくる。映画の中で日本語で歌われているのが不思議な感じである。その他に監督が曲のタイトルをつけた「Motto Wasabi」という曲も出てくる。[ラヴィ・ド・ボエーム]でも「雪の降る町を」が流れていた、日本好きのカウリスマキ監督である。列車の食堂で日本酒と和食が出てくるのも変で面白い。

映画のチラシに「人生は前にしか進まない」というフレーズがある。もっともである。あの日に帰りたいと思っても人生は前にしか進まない。できるだけ楽しかった思い出を心のなかにいっぱいにして、前を見て進んで行くだけである。過去のことが空白になってしまった男は、前にしか進みようがない。しかし、名前も住所もない状態では社会の中で生きていくのに障害が多く仕事にも就きにくい。そんな彼にも、ささやかな幸せをもたらしてくれるエンジェルが‥‥。観ていてほんわかとした幸福感に。

日本庭園を巡る[5]
新緑の天龍寺

5月上旬、京都の友人を訪ねた帰り、嵯峨嵐山で降りて天龍寺を訪ねた。小雨が降っていたので新緑が美しく、空気もしっとりとして心地よかった。雨の中を歩き回るのも面倒なので、方丈の板の廊下に座って暫しボーっと眺めたが、心が柔らかく解ける良い時間だった。

印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、ホラー、ミュージカル等々好みのタイプでいろいろです。
私が見た好きな映画100本の印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶なので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします。

連載071
バック・トゥ・ザ・フューチャー[Back To The Future]USA 1985
監督:ロバート・ゼメキス

主演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン

かって40年ほど前、アメリカのTVドラマで[タイムトンネル]というのがあり毎週楽しみに観ていた。二人の研究所員がタイムトンネルの中に入ってワープして、タイタニック号に乗船したりして歴史的なシーンに立ち会う。「この船は沈むぞ!」と言っても、この大きな最新型の船が沈むわけがないと誰も聞く耳を持たない。危機が迫ると研究所で機械を操作して、ひとまず時と所が移動する。こうして毎週何処かに移動してナポレオンなどに会ったりする。しかし、マシンの調子が悪くなって映像が途切れたりしてちょっとハラハラ、なかなか現在に戻って来られない展開だった。

その他に最近リメイクされた、1960年制作の[タイムマシン]は、イギリスの研究者が自宅の研究所で発明したタイムマシンに乗って時空を飛ぶストーリー。この場合は時間の移動だけで場所は変わらない設定だった。ビデオの早送りのように太陽や雲が動いて、昼、夜、昼、夜と空が変わってだんだん進むのが早くなって時が5年10年20年と未来へ進んでいく。自宅の研究所の向かいの洋服店のショーウインドウのマネキンの服がめまぐるしく変わるのが面白い。20年後にたどり着いてみると自分の家の敷地が自分の名前のついたメモリアルパークになっていたり、通りを歩く友人に声をかけると、それは大きくなった友人そっくりの息子だったりする。

この[バック・トゥ・ザ・フューチャー]は逆に1985年から30年前の過去に行く。大入りの映画館で座れた席はいちばん前で、大きな画面を見上げるようにして見た記憶がある。その後何度かテレビでも放映されているが、シリアスな展開ではなく何度観ても楽しい映画である。何よりも私の世代には憧れであった、またアメリカにとってもハッピーだった1955年にタイムスリップするというのが嬉しい。○月#日*時△分に時計台に雷が落ちて、止まったままの時計を復活させようというチラシを広場で配っている。上手い伏線である。

フィフィティーズのカフェや街角のようす、当時のアメ車などが見ていて嬉しい。主人公マーティがほとんど同じ年の両親に会うのは変な気分だろう。お母さんの家で食事をするシーンがあるが、そこには若いお祖父さんとお祖母さん、まだジャリの叔父さん叔母さんがいる。

いちばん気に入ったのは、パーティーのステージでマーティがチャック・ベリーの[ジョニーBグッド]?だったかを演奏するとき、ヴォーカルの黒人が新しいサウンドに驚いてチャック・ベリーに「ほらチャック聞いてみろ、お前の探している新しい音だ!」と電話をするシーン。ダンスもノリノリになり彼のギタープレイがエスカレートしてヴァン・ヘイレンのようになってしまうが、55年頃の感覚ではついていけない。ロックンロールの変化は著しいものがある。そして、85年頃は絶好調だったヒューイ・ルイス&ニュースの映画のテーマソングも良かった。

 

連載072
ある日どこかで[Somewhere In Time]USA 1980
監督:ヤノット・シュワルツ

主演:クリストファー・リーブ、ジェーン・シーモア、テレサ・ライト、スーザン・フレンチ

日常から夢想の世界へ誘うタイムトラベルが好きである。その他に観たもので第二次大戦から40年後にワープするマイケル・パレがかっこよかった[フィラデルフィア・エクスペリメント]。同窓会で気絶して気がついたら高校生に戻っているが中身は今のままの[ペギー・スーの結婚]。そして、宇宙船がたどり着いた惑星のあっと驚くエンディングの[猿の惑星]も光速で移動するタイムトラベルである。

この映画もそうだが、他のものよりはSF的ではなくノスタルジーな設定のラブロマンスである。 主人公は見知らぬ白髪の老婦人に「私のところに帰ってきて」囁かれる。年月が経ちホテルで見かけた美しい女性の肖像画に魅せらる。その女性の人生をたどると白髪の老婦人の若き日の姿と知り、取り憑かれたように過去への旅を模索する。スーパーマンが事故に遭う前の出演で、女性役はジェーン・シーモア、出演した映画は少ないが、肖像画よりずっと美しく私も魅せられてしまった。センチメンタルな切ない恋の物語。

ラフマニノフの[ラプソディ]?が繰り返し流れるが、ストーリーと相まって見終わった後にも残り、数日のあいだこのメロディが頭のなかで何度も出てきた。音楽担当はジョン・バリー[真夜中のカーボーイ][007ダイアモンドは永遠に][白いドレスの女]などを手がけている。素晴らしい選曲である。クラシックにはあまり関心のない私もこの曲が好きになってしまった。

タイムトラベルはファンタジーの世界ばかりではない。実際にそんな夢を見ることはあるが、思うように会いたい人が出てきたり行きたいところに行けない。思いがけなく好きな人に会えれば嬉しいが、願ってもいない悪夢にうなされることもある。私が見る場合、海外の見知らぬ土地で見知らぬ人達の中にいることがあるが、心が彷徨っているのだろうか。しかし、朝起きて夢を覚えていることは殆ど無い、熟睡科健忘属朝寝種である

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