幸せな気分の美しい季節

今年の染井吉野は10日程早く開花し、4月に入ってすぐ桜吹雪になってしまいました。
写真は自宅近くの大川沿いで撮影したものです。桜を想ってくつろいでいただければ幸いです。

 

水面に散る花びら
大川を流れる花びら

印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、ホラー、ミュージカル等々好みのタイプでいろいろです。
私が見た好きな映画100本の印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶なので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします

連載043
パリ,テキサス[Paris,Texas] 西ドイツ・フランス 1984
監督:ヴィム・ヴェンダース
主演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー

パリ・テキサスとはじめて聞いたときは、洗練されたファッションと芸術の都と、油田と牧場と砂埃の舞う平原のイメージがつながらないなぁと思った。[買ってはいけない]の本のタイトル、[おいしい生活]の広告コピー等のように「ん?なに?」と思わせるシンプルでうまいタイトルである。アメリカの場合、市や村と州名を一緒につける決まりになっているんだろう。ニューヨーク・ニューヨークは二度繰り返す。1980年にしばらく滞在していたところは、南カリフォルニアによくあるスペイン語の地名のアルハンブラ・カリフォルニアだった。その時買ってきたロード・アトラスを見るとパリ・テキサスという町がオクラホマ州に近いテキサス北部にある。

赤い野球帽に黒いスーツを着たアンバランスな格好の男が黙々と歩いている。ライ・クーダーのスライドギターの音が無味乾燥の赤茶けた砂漠を背景に、孤独感を募らせる。心がパソコンのようにリセットして元にもどるのであればいいのだが、初めは熱々でも次第に気持ちは変化してくる。強すぎる愛も嫉妬や束縛などでお互いの心に亀裂が入ったり、重苦しくなる。やがて崩れていって修復ができなくなる。覗き部屋で受話器ごしに本音を語り合い、お互いまだ愛し合っている事がわかっても元には戻れない。人の心は複雑である。男の心は砂漠の中をずっと彷徨い続けている。

家族の8ミリ映画を見るシーンが印象に強く残っている。ちょっとコントラストの強い荒れた画像が、効果的に過去を映し出して生き生きとして素晴らしい。過ぎ去った幸せの日々だけに、ライ・クーダーのスライドギターが輪をかけて泣かせる。砂漠の中の道路脇にぽつんとある、ごく普通に見かけるガスステーションやモーテルのロングショットやヒューストンのホテルの窓を眺めて佇む夕焼けのショットの乾いていて殺風景な侘びしさ。流石、ヴェンダース監督の映像である。

連載044
バニシング・ポイント[Vanishing Point]USA 1971
監督:リチャード・C・サラフィアン
主演:バリー・ニューマン、クリーヴォン・リトル

この映画を見たのは、1971年7月梅田のニューOS劇場(今のOS劇場)で、デザイン事務所に勤め始めて3ヶ月を過ぎたころである。初めてのデザイン事務所だったので、デザイナーやイラストレーターの仕事場はこういうものだと思っていたが、今思えば変わっていた。朝、毎日1時間も社長の話がある。話というよりえらい迫力の説教で、毎日こんなんで朝から気分が悪かった。指令をきっちりやり遂げる[スパイ大作戦]を例にあげ「バッチシやれ、バッチシ」が口癖だった。そして、二人のディレクターのうち一人がいつも怒られ役だった。いつもの事なので、慣れっこのTディレクターは下を向いて聞いておられたが、半分寝ているときもあった。そんなとき「こら、聞いとんのか!」という社長の大きな声がとんだ。

ライオンの鬣のようなロングヘアーのMチャンは、私と同じ歳だったが既に完璧にプロの腕前で、繊細でエレガントなイラストをエアブラシで描いていた。風のたよりで、ちょっと有名なテキスタイル・デザイナーと暮らしていると聞いていた。数年前、東京青山あたりの彼の家のインテリアが雑誌に紹介されているのを見たことがある。

そして紫色の好きだったKチャン。パープルのシャツやベルボトムにブーツもパープル。男物の靴にパープルなど当然売っていないので、自分でカラーインクで白い靴に着色していた。その頃流行っていたサイケとかピーコック革命とかのセンスとは違って、変わっていた。オートクチュールで黒地にひまわり柄のワンピースを誂えたり、どこで見つけたのか、オレンジ色のペルシャの昔の絵巻の柄のジャケットも着ていた。このひまわりや絵柄ジャケットは当時ほんまに派手だった。

夏の5時を過ぎるとビル全体ののエアコンが切られてしまって暑い。社長と経理事務の女性社員や女性アシスタントが帰ると、Kチャンは服を脱いで、自慢の胸の筋肉をピクピクさせて見せ、下着一枚になり、彼の好きなピンク・フロイドの[原子心母]やキング・クリムゾンの[クリムゾン・キングの宮殿]寺山修司の[書を捨て町へ出よ]などのレコードをガンガンかけて仕事をしていた。それ以来31年の長いつきあいである。

今でも繰り返し聞かされたその音楽を聴くと当時を思い出す。私もがんばっているつもりで先輩のアシストをしたが、ページものの版下台紙づくりで直角になっていない台紙をたくさん作ったりして邪魔をしていた。今のパソコンではあり得ない失敗である。夜遅くまでの仕事の日が多かったが、実家から1時間半程かけて通勤していた私は、朝9時に出社して夜9時ぐらいには事務所を出ていた。しんどかったら休んでもいいと言われ、真に受けてほんとに休み、社長から「先輩が遅くまで仕事しているのに、なんだお前は!」朝の説教が私に向けられた事もあった。

そんな見習いの日々だったが、巷ではまだ学生運動が激しかった。この映画はその時代の気運に合っていた。いきなりイントロでブルドーザーが道をふさいでいるシーンがあり、車が走ってくる。そこから展開は過去へ、車の陸送のドライバーがデンバーからサンフランシスコへ行く途中に、パトカーに呼び止められるが、無視して突っ走る。そこから走って、振り切って、逃げてのカーチェイスとなる。その間の出来事は忘れてしまったが、ラジオ局のDJの情報を聞きながら、コロラドからユタ、ネバダを抜けカリフォルニアに入り、初めのシーンに戻ってくる。そして、権力の化身であるブルドーザーに猛スピードで向かって走ってきて激突するまでの数分間に主人公の頭に過去の事がフラッシュバックする大胆な構成である。台詞は少なく多くを語らないが、泥沼化するベトナム戦争へ駆りだされるアメリカの若者はもとより、権力に憤りをぶつける気持ちを観客は感じたと思う。

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