印象に残る映画は人それぞれです。生い立ちや見たときの状態で共感したり、目に焼き付いた映像、忘れられない台詞、的を得たグッとくるサウンド、主人公に感情移入する演技やストーリー展開。アクション、コメディ、スリラー、ミュージカルなど、映画のタイプの好みでいろいろです。
私が見た好きな映画100本を選んで印象を綴りながら連載しています。遥か前に見た記憶で書いているので思い違いがあると思います、お気づきの点や共感されたこと、違う見方のご意見がございましたらメールをお願いします。


連載005 
イージー・ライダー [Easy Rider]
USA 1969
監督デニス・ホッパー 
主演:ピーター・フォンダ デニス・ホッパー ジャック・ニコルソン

アウトサイダーに憧れていた。暴走族のように群れるのではなく、ウエスタンの馬に乗って荒野を彷徨う1匹狼や、時代劇の訳ありの旅の素浪人のように、風まかせの旅を続けるアウトサイダーである。私自身は一般社会の道を踏み出す勇気はなく、良識のブレーキをかけっぱなしでアクセルをふかせないでいるが、その憧れをアウトサイダー達のロードムービーで夢体験をしている。 この映画は70年2月頃今のナビオのビルになる前のスカラ座で上映された。これを見に行くのはバイク好きか、ロック好きか、ドラッグ好きか、ドロップアウト願望者だったであろう。なんか場違いの大きな封切り館で、記憶では人があまり入ってなかった。

何と言ってもあのバイクである。「おお、すげぇ!こんなん初めて見たなぁ」だった。コケインかヘロインを売りさばいて手に入れた大金をタンクに隠して、いざ出発。ステッペン・ウルフの[ワイルドで行こう]の曲にのってあのバイクで旅が始まる。いい感じである。その後バーズの[Wasn't Born To Follow]のさわやかなサウンドにひたり東へ向かってバイクは走る。そして、ヒッチハイクのヒッピーを後に乗せてザ・バンドの[Weight]を聞きながらモニュメント・バレーあたりをゆったりと走るシーンも素晴らしい。もっともっと長く見ていたいという気分だ。

ニューオリンズのマルディグラのシーンはドキュメンタリー・タッチで撮っていて面白いが、その後の墓場でのトリップのシーンが強く印象に残っている。ドラッグによる感情の起伏の増幅や、幻覚を表現する映像が超広角レンズと短いカットを連続につないだ編集でなんともサイケデリックだった。

1975年、一人旅の出発まじかにアメリカをまわる事を友人に話すと、数人から「南部で撃たれて死ぬぞ」と脅された。これは、今でこそ日本でも「ただ殺してみたかった」というような理由のあいまいな事件がおこったりしているが、当時はまだあまり無く、みんなこの映画に衝撃を受けたからだろう。

ブルーズがディープサウスからシカゴへ行き着いたのと同じようにニューオリンズからミシシッピー河に沿ってジャクソン、メンフィス、セントルイスそしてシカゴへとグレイハウンド・バスで北上してみた。この映画の事もあって、やや緊張していたが幸い撃たれることもなくいい旅だった。その旅の途中でこんな待遇を受けた。ニューオリンズでは英語がまともに話せない奴は泊められないとか、ジャクソンではやっと見つけた食堂で食べ終わってお金を払ったときに、お前のようなアジア人の来るところじゃないと言うような態度で釣り銭を無言でレジのカウンターに叩き付けられた。そういうことかと気が付いて店の中を見渡せば白人ばかり、「しゃあないやん、こんなミシシッピーの田舎で店が無いんやから」とすっと英語では言えず、黙ってすごすごと店を出た。腹が立ったというより、驚きだった。これが話に聞いていたことなんだと認識した。50・60年代以前の昔のように[White Only]てな看板は出てないが暗黙のうちに白人、黒人の行く店は決まっているのだ。 今思えばこれは貴重な経験だった。受ける側の心の痛みが少し理解でき、相手の気持ちを考えるようになった。


連載006 
勝手にしやがれ[A Bout De Souffle] フランス1959
監督ジャン・リュック・ゴダール 
主演:ジャン・ポール・ベルモンド ジーン・セバーグ 


「俺はアホだ」。最初の台詞だ。自分の事が良く分かってるくせして、車を盗んでご機嫌でドライブ中スピードオーバーで警官に追いかけられて逃げるが、すぐ見つかり車にあったピストルで警官を撃ち殺し、追われる事になる。間違いなく彼の言うとおりだ。

この映画は1987年12月に三番街シネマ2で「気狂いピエロ」と二本立てで見ている。ゴダール特集というような事だったのだろうか。「気狂いピエロ」の方はなぜか殆ど記憶に残っていない。「勝手にしやがれ」のほうが気に入ったからかもしれない。主にセットを組み立てて撮影していた当時のハリウッド映画に比べ、ロケでの撮影のフットワークの軽やかさと垢抜けた新鮮な感覚のヌーベル・バーグの代表作であり、アメリカン・ニューシネマに影響を与えた映画でもある。 

お金のない彼は、知り合いのモデルの女の子のところに借りに行くが断られる。その子が服を着替えてる隙に財布から抜き取る。せこい野郎である。そして、惚れてるセシルカットのパトリシア(ジーン・セバーグ)の部屋に勝手に上がり込んでベッドで寝ているが、帰ってきた彼女にちょっと怒られて、スカートをめくって叩かれても、結局二人でゴロニャンである。知的でもなく口上手ないい加減なヤツだが、憎めなくてなぜか彼女が魅かれてしまう。親しみのある顔、背の高いがっしりしたスタイル、阿弥陀に被った帽子、サングラスにくわえ煙草、崩した服の着こなし、不良の匂いを漂わせたヤツに子猫はゴロゴロ喉を鳴らしてしまうのである。

最後のヨロヨロと逃げるシーンが印象的だ。後から手持ちのカメラで追っかけて撮っているので、刑事の目線になって揺れながらリアルな感じで追ってるように見える。最後に「最低だぜ」と言うが彼女は聞き取れなくて、刑事に何と言ったか聞くと「あんたは最低だ」と答える。このコミュ二ケーションのズレが面白い。ダチの車で逃げられたのに、彼女と離れてしまうのをためらった愚か者の悲しい恋である。 この撮影場所は14区のカンパーニュ・プルミエ街だそうだが、パリを訪れるときはこの通りに行ってみたいと思う。